Labyrinthos

ジャンヌ・ダルク

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会社の特別演奏会、A.オネゲル作曲 劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」が終わった。演奏会前に音源を2種類聴き仕事に臨んだこと(つまり、ひとつ聴いてからもう一種類聴きたいと思ったということ)は自分にとって非常に珍しいことだった。さらに興味を持って本を読んだ。時間が無かったので読み方が斜めだったのが今となっては残念ではあるけれど(楽譜の初見と同様に、最初に読む一回は一生に一度の一回だったのに)。

そのオネゲルの自著「わたしは作曲家である」の中で印象に残った箇所がある。自画像を描いてもらっているオネゲルに、デザンクロがピアノでメシアンの曲を弾いて聴かせている、というシーン。(いま手元に本が無いので細部はあやしいのだけれど)演奏者のルバートや揺らぎを含めたような、「全てを」書き表わしているような楽譜についてオネゲルが疑問視しているところで、非常にピンときてしまった。今回の指揮者沼尻竜典氏を思い出したから。決して脳内作為はなく。

音楽に関わる手段(私の場合はコントラバスなどの楽器)が洗練されればされるほど、その手段が何であれ、それらは次第に相対化され、その目的である音楽そのものが、いわば上澄みのようにその質と量を増してくる(はず…希望的には)。作曲家の場合の手段、つまり音楽作品自体にそのまま当てはめるのは無理というものだけれど、今回の「ジャンヌ」に関しては、頷けると感じていた。全く複雑ではない拍子(ほとんどの分母は4だった)で書かれており、その楽譜は非常に整理されたたたずまいを見せている。もちろん使われている和声やオーケストレーションはある程度複雑であり、再現には一定以上の理解と詰めた作業が必要ではあるが、例えばアーティキュレーションやスラー・装飾音符の扱いなどが書式的にもたいへんオーソドックスであることや加えて楽譜にあらわれるダイナミックスなどの不統一や省略なども古典やロマン派をほうふつとさせ、「演奏するためのガイドとしては有難いけれど何だかとっても支配的に感じる」「音符の数より注釈のほうが多いかもしれない」どこかの近代の曲とは全く違う、非常に好ましいものであった。

そんな曲を沼尻氏は、気をてらわない・自己やもちろん自我のためなどでないと直感的に周囲に感じさせる、つまり音楽に奉仕する棒で、あらゆる音符から音を「起こして」いった。もしかしたら作曲者と同じくらい…間違いなく作曲者の次に…「聞こえている」であろう彼の、演者・演奏者へのインフォメーションは、限られた時間の中で、彼の高い能力と集中力はもちろん、巨匠ぶらない・フレンドリーな・むしろ「愛らしい」とさえ言えるキャラクターから発せられるユーモアに満ちた・しかし的確な言葉やしぐさによって、極めて高い浸透圧で我々に伝わってくる。そして何よりも演奏しているときの彼から感じるのは、棒のテクニックなど仕事としての指揮者の存在ではなく、洗練されていればいるほどクローズアップされてくる例の「上澄み」…音楽そのものであって、そのことはオーケストラプレイヤーとして、自分も能動的に且つ高い彼のクウォリティに含まれて音楽へ直接奉仕できる極めて喜ばしい機会を与えられたことを意味する。

ある意味シンプルであって、大時代的ではない。必要以上に構えない、とらわれてはいけないもの(こと)にとらわれない。そして、良いセンスによって、普遍性を獲得していく。普遍へと近づく。

オネゲルがこの曲を書くに当たって苦吟したのかどうかは知らないが、題材として歴史的・宗教的そして人間のドラマを強く持った「ジャンヌ・ダルク」を得たときに、非人間的に巨大で難解な作品に書かなかったことと、それを読み解く力を持った指揮者のもとで演奏できたことに、感謝したい。

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Comments

さちこ|2010/02/08 09:47 PM
こんばんは。
会社のページに来たのかと思ってしまいました。
この曲をお聴きしてませんし、なんだか難しいのですけれど、この記事を拝見するととてもワクワクします。
このような世界を理解できたらきっと高貴な香りを楽しめるのだろうな、いいなあ。
陰ながら応援しております。(会員じゃないですけど、あまり行ってませんけど。)
|2010/02/09 12:12 PM
聞きに行きたかったのですが仕事がぁ・・・
(残念)
オーナー殿がこんなに長く(しかもむっつかしい漢字をいっぱい使って)コメントされるとは、きっと良いお仕事ができたのですね。
よかったよかった・・・
cbnvdgk|2010/02/09 10:07 PM
さちこ様

>陰ながら

ありがとうございます。十分にお気持ちは!


★様

>仕事がぁ・・・

東奔西走のご様子…とか書いたら失礼なのか、もとい、日本全国津々浦々股にかけてのご多忙、某MLで拝読させていただいとります。
むつかしい漢字てアータそんな、どこが。あ、冗談ですな。

ホントに印象にしっかり残るお仕事でした。
タノシカッタヨ。

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